メソスコピック素子における断熱ポンピング現象は時間に依存する量子輸送現象のなかで基本的な現象である。ポンピング性能(単位時間当たりのポンピング量)を最大にするためには、非断熱効果が無視できる駆動速度の上限(=制限速度)より十分に小さい駆動速度でポンピングを駆動させる必要がある。一般に駆動パラメータのパラメータ空間中の軌跡が長くなると、1サイクルあたりの電荷ポンプ量は増加するが、制限速度の制約下で駆動周期が長くなりポンピング性能が減少する。このトレードオフを注意深く考察し、断熱排気のパワーを最大にする最適化周期と輪郭が存在することを示した。またこの結果を、単一準位量子ドットでの電荷ポンピングに適用した。
M. Hasegawa and T. Kato, Geometrical Optimization of Pumping Power under Adiabatic Parameter Driving, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 064706 (2020). [Preprint: arXiv:1901.01669].