研究内容

加藤研究室では、物性物理学の分野におけるさまざまな現象に対して、解析的手法や数値計算手法などを用いた理論研究を行っています。

物性物理学とは

物理学にはいくつかの学問分野がありますが、物性物理学はそのうちの一つで、世界でもっとも研究人口が多い研究分野です。材料工学や光学、半導体といった、応用上も重要な研究対象も含まれています。

物性物理学の最大の魅力は、日々いろいろな物質が合成され、多彩な測定手法によって実験結果が得られている、ということです。これらの実験結果がこれまでの理論で矛盾なく説明できればよいのですが、これまでの理論と食い違う結果が得られたり、これまでの理論が使えなかったり、ということがでてきます。加藤研究室では、こうした不思議な実験結果を「どうしたらうまく理解できるのか」ということに、日々頭を悩ませながら研究を行っています。いろいろな物質の性質を、多様な実験結果から理論的に探っていく過程は、あたかもジグソーパズルのパーツを一つずつあてはめていくような楽しさがあります。

加藤研究室の研究テーマ

加藤研究室の研究テーマは多岐にわたりますが、おおよそ以下のキーワードでまとめられます。

キーワード1:メゾスコピック系物理

メゾスコピック系物理とは、ミクロとマクロの間に位置する対象を扱う学問です。具体的には1マイクロメートルより小さい長さスケールの人工構造体の物性を研究します。このような構造体では、電子の「波としての特性」を扱わないと物性を記述できません。この研究テーマの魅力は、量子力学の基礎的な概念を実際に直接実験することができる、ということです。量子力学の不思議な性質(例えば粒子の非個別性や、非局所相関など)を、人間が望むような形で制御し検証する試みが盛んに行われています。

この分野の理論研究者は世界的には多いのですが、なぜか日本にはあまりいません。東京大学のなかでも「メゾスコピック系」の看板を掲げている理論研究室はほとんどないので、加藤研究室では意識して「メゾスコピック系」を主要な研究テーマに掲げています。

キーワード2:非平衡統計力学

物理学を専攻する学生は、学部で「統計力学」の授業を学ぶことと思います。統計力学は、熱平衡状態にある物質を記述する学問で、非常に美しい理論体系を有しています。しかし、統計力学はあくまで「熱平衡状態」という限られた状態にのみ適用できる理論体系であり、熱平衡状態から離れた状態(非平衡状態)ではまったく成り立たなくなります。熱平衡状態から離れた状態はどのように理論的に記述すればよいか?この疑問に答えようとするのが、非平衡統計力学です。

加藤研究室では、メゾスコピック素子の電子の伝導特性で生じる非平衡状態に興味をもっています。理論の構築は易々とはいかないでしょうが、場の理論による手法や数値計算手法開発などによって、そのヒントになるような結果を得るべく研究を行っています。

キーワード3:電子相関

ある種の物質群では、電子間に働くクーロン相互作用を無視することができません。電子間クーロン相互作用の影響が大きい場合には、「電子相関」と呼ばれる量子多体系特有の興味深い現象が現れますが、これを理論的に取り扱うのは容易なことではありません。事実、これまで数十年にもわたって、電子相関に関する理論研究が脈々と行われ続け、現在も活発な研究が行われています。

加藤研究室においても、電子相関は重要なキーワードです。例えば、量子ドット系などのメゾスコピック素子において、近藤効果と呼ばれる現象が観測されています。このような電子相関が強い状態の伝導特性は、大変興味深いテーマです。電子相関を突き詰めていくと、「高温超伝導体」や「モット絶縁体」という難攻不落の問題にまで行き着きます。これらの問題の解決には、非常に多くの困難を解決しなくてはなりませんが、メゾスコピック系での電子相関を取り扱うことを通して、これらの将来の課題に対して何かヒントとなるものがつかめるかもしれません。

キーワード4:「柔らかい」電子状態

少しメゾスコピック系から離れたテーマも研究しています。それは物質中の電子や格子の状態が、「ガラス」のような不規則な構造をもつような系の研究です。母体となる物質の結晶構造が整然としたものであっても、電子相関や乱れといった要因によって、電子や格子に何らかの「パターン」の形成や「ガラス」状態の出現など、空間的に不規則な構造が生じる場合があります。このような電子状態に外場をかけると、かなり特異な応答をすると期待されています。具体的には、リラクサー誘電体や有機導体において、このような状態の理論的研究を行っています。