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ラッティンジャー流体への単一電子注入

ローレンツ型電圧パルスを電子が1個分含まれるように励起すると、余計なホール励起を発生させることなく一電子注入が可能である。これをLevitonパルスという。これまでパルスの生成は相互作用のない電子系を用いて考察されてきたが、本研究では相互作用電子系(ラッティンジャー液体)への拡張を行った。電子間相互作用がある場合でもLevitonパルスは過剰電流ノイズを抑制することを示した。さらに一次元電子系とリードの境界におけるアンドレーエフ反射現象とその検出法も議論した。Minimal AC injection into Carbon Nanotubes, K. Fukuzawa, T. Kato, T. Jonckheere, J. Rech, T. Martin, Phys. Rev. B 108, 125307 (2023). [Preprint: arXiv:2307.11943].

光浮上技術と強磁性共鳴を用いた微粒子の高速回転駆動

アインシュタイン-ド・ハース効果に代表されるようにスピン角運動量は磁気回転結合を通じて剛体回転の角運動量に変換することができる。光ピンセットを代表とする光浮遊技術を用いて、強磁性共鳴を利用した強磁性微粒子の高速回転現象を提案した。高速回転によりバーネット効果も誘起され、圧力やマイクロ波振幅が特定の条件を満たすと非線形分岐現象が生じることを示した。さらに回転速度のゆらぎから、磁化が格子に渡す角運動量の単位が求められることも明らかにした。Gyromagnetic bifurcation in a levitated ferromagnetic particle, T. Sato, T. Kato, Daigo Oue, and M. Matsuo, Phys. Rev. B 107, L180406 (2023). [Preprint: arXiv:2202.02461]. Quantum fluctuation in rotation velocity of a levitated magnetic particle, T. Sato, D. Oue, M. Matsuo, T. Kato, Phys. Rev. B 108, 094428 (2023). [Preprint: arXiv:2306.12193].

2次元電子系へのスピンポンピング

2次元電子系におけるスピンから電荷への変換現象として逆エーデルシュタイン効果が知られている。これまでスピンポンピングと逆エーデルシュタイン効果を組み合わせた電流生成について実験研究が盛んに行われてきたが、微視的理論は未整備のままであった。本研究では強磁性絶縁体からラシュバ型スピン軌道相互作用とドレッセルハウス型スピン軌道相互作用が共存する二次元電子ガスへのスピンポンピングを定式化し、共鳴周波数依存性や磁化方位依存性を議論した。Theory of inverse Rashba-Edelstein effect induced by spin pumping into a two-dimensional electron gas, M. Yama, M. Matsuo, and T. Kato, Phys. Rev. B 108, 144430 (2023). [Preprint: arXiv:2305.13953].

超流動異常相での非平衡粒子流ノイズ

強い引力相互作用を有する2つの冷却フェルミ原子気体を弱く結合された系で生じる粒子の流れについて、非平衡ノイズ(ショットノイズ)とよばれる粒子流の「ゆらぎ」の理論を構築した。強い原子間引力により伝導キャリアが従来の1原子から2原子ペアへ変化している可能性に着目し、ショットノイズと粒子流の比で与えられるファノ因子の値から一回の輸送プロセスで移動する有効原子数を判別できることを明らかにした。本研究成果は冷却フェルミ原子気体に限らず非従来型の強相関超伝導の伝導プロセス解明においても有用であることが期待される。Nonequilibrium noise as a probe of pair-tunneling transport in the BCS–BEC crossover, H. Tajima, D. Oue, M. Matsuo, and T. Kato, PNAS Nexus 2, pgad045 (2023). [Preprint: arXiv:2202.03873].

スピンホール磁気抵抗の量子モンテカルロ法による数値計算

スピンホール磁気抵抗(SMR)は強磁性絶縁体と常磁性金属を接合させた系で生じる磁気抵抗効果であり、磁気デバイスへの応用が期待されている。これまでの理論では、スピン混合コンダクタンスとスピン拡散に基づく現象論が用いられてきたが、温度依存性を議論することは困難であった。本研究では擬二次元反強磁性絶縁体と金属の接合系を考え、非平衡グリーン関数を用いた微視的理論を用い、量子モンテカルロ法によってSMRを数値的に評価し、温度・スピンの大きさ・膜厚・乱れなどの依存性を明らかにした。Spin Hall magnetoresistance in quasi-two-dimensional antiferromagnetic-insulator/metal bilayer systems, T. Ishikawa, M. Matsuo, and T. Kato, Phys. Rev. B 107, 054426 (2023). [Preprint: arXiv:2208.08096].

量子連続測定下の2準位系を介した熱輸送

2準位系を介した熱輸送における量子観測のバックアクション(反作用)を理論的に考察した。まず、2準位系の固有状態への連続射影を考え、測定値の情報を捨て去る場合にはバックアクションは位相緩和として記述できることを示した。さらにバックアクションの効果を直接見るために、測定値と熱流の交差相関を確率マスター方程式から導出した。これらの結果は超伝導量子ビットを含む超伝導回路において、現在の実験技術で十分に測定が可能である。Heat transport through a two-level system under continuous quantum measurement, T. Yamamoto, Y. Tokura, and T. Kato, Phys. Rev. B 106, 205419 (2022). [Preprint: arXiv:2208.08755].

電子のスピンを駆動力とするナノモーターの提案

スピンと力学的な回転運動の変換現象である磁気回転効果を利用して、ナノスケールの物体の効率的な回転駆動機構について理論的に考察した。二層カーボンナノチューブと強磁性金属を電極とする構造を考え、電極間に電圧を印加すると、一方の電極から偏極した電子スピンがナノ回転子(ナノチューブ)に注入される。注入された電子は回転子内における磁気回転相互作用により、そのスピンの向きを反転させるとともに回転子に角運動量を受け渡し、スピンの向きが反転した電子はその偏極と同じ方向に偏極したもう一方の電極へと抜ける。この過程を繰り返す事で、回転子は角運動量を注入電子スピンより獲得し、効率的に回転運動が誘起されることを理論計算により示した。W. Izumida, R. Okuyama, K. Sato, T. Kato, and M. Matsuo, Phys. Rev. Lett. 128, 017701 (2022). [Preprint: arXiv:2106.04861].

半導体量子ドット中での多電子状態の読み出しとスピン緩和現象の解析

半導体量子ドット中の多電子スピン状態の読み出し実験に対して、スピン緩和時間の理論的な解析を行った。電子格子作用と半導体中のドレッセルハウススピン軌道相互作用を考慮して、フォノンによるスピン緩和時間を評価した。計算には厳密対角化法と摂動論を用いた。その結果、量子ドット中に含まれる電子数が多いほど電子相関効果によってスピン緩和時間が急激に短くなることを明らかにした。さらに量子ドット中の全スピンの大きさに関する依存性も議論した。計算結果は実験を定性的によく説明することがわかった。H. Kiyama, K. Yoshimi, T. Kato, T. Nakajima, A. Oiwa, and S. Tarucha, Phys. Rev. Lett. 127, 086802 (2021). [Preprint: arXiv:2108.13663]

非摂動領域におけるGaAsの高次高調波発生

GaAsの高調波発生の電界強度依存性に関する実験結果の理論的解析を担当した。入射光強度が強く摂動論から予言されるスケーリング則が成立しない領域において、高次高調波の発生強度が入射光強度に対して非単調に振る舞うという実験結果に対して、ラッティンジャー-コーン模型に基づく理論計算を行い、観測した非単調な挙動を再現することに成功した。この振る舞いは非摂動領域に特有の現象であり、フロッケサブバンドに基づく描像によって動的局在化現象として捉えることができることを明らかにした。P. Xia, T. Tamaya, C. Kim, F. Lu, T. Kanai, N. Ishii, J. Itatani, H. Akiyama, T. Kato, Phys. Rev. B 104, 121202 (2021). [Preprint: arXiv:2004.04492]

乱れのある1次元ジョセフソン接合列におけるマイクロ波散乱

複雑な量子多体問題は一般にそのまま解くことは困難である。そこで、元の複雑な模型の代わりに制御性の高い人工量子系に置き換えて考える量子シミュレーションという試みが近年注目を集めている。その中でも、超伝導回路はその高い制御性から最適な舞台の1つとして注目されている。超伝導回路にあるランダムな電荷は通常では、いわゆる綺麗な実験にはジャマ者と見なされ嫌厭されるが、本研究では、これを逆手にとり、不規則系の物理のシミュレーションとして考えた。特に本研究では、1次元ジョセフソン接合列を考え、マイクロ波散乱を通して調べることで、ジョセフソン接合列に潜む興味深い物質相である「ボーズグラス」のダイナミクスを明らかにすることができた。T. Yamamoto, L. I. Glazman, and M. Houzet, Phys. Rev. B 103, 224211 (2021). [Preprint: arXiv:2012.00305].